膝痛 (4) なぜ膝が痛むのか

なぜ膝が痛くなるのでしょう。「使い傷み」ですかね、と言う人が多いですね。確かにそんな面があるのを否定しません。若人より老人に多いのは間違いありません。けれど、それだけでしょうか。最近は歩かないでクルマばかりの人が増えているのに、なぜ使い傷みなのか、よく歩いていた昔は膝痛が今の倍ほどもあったのか、という疑問があります。

江戸の人は膝が丈夫だった

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北斎漫画

葛飾北斎(1760-1849)のスケッチブック『北斎漫画』(復刻=芸艸堂)をご存じでしょうか(右図はその一部)。江戸庶民の生活が活写され、たいへん興味深い本です。「ホクサイ・スケッチ」と呼ばれて、西洋の印象派の画家たちにも強い影響を与えたと言われています。これを見ると、当時の人々の生活が手に取るように分かるので、私はときどき取り出して眺めることがあります。でも、膝が痛くて困っている人の姿は、ほとんど見かけません。膝をよく使うと傷むのであれば、少しはあってもよさそうなものですけれど、数百点以上も描かれている人々の姿のうち、杖を持ったり膝を傷めて難渋したりしている人の姿は、ほんの数点あるかないか。

ずばり結論をさきに書きますと、膝を傷めている人が多いのは、自動車に乗ることが多いからではないかと思います。自動車に乗って、あまり歩かないので膝の周辺の筋肉がへたってくる、そのために膝関節が緩んでくる、というのが膝痛の大きな原因ではないか、と思います。前回に書いたように、ここで緩んでくるというのは、機械のガタつきのような状態をさしています。

足首の距骨が歪む

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百合

さて、膝を傷めて(あるいは痛めて)いる人の多くに共通しているのは、足首の距骨(きょこつ)が内側にズレていることです。というより、距骨が内側へズレている人が実に多い。ズレていることをどうすれば調べられるかですが、内くるぶしのすぐ下を押してみれば圧痛があるからすぐ分かります。圧痛の場所は人によって少しずつ違うので、内くるぶしの下側周辺をあちこち押さえてみれば、どこかに痛むところがあります。激痛ではないでしょうが、少し痛みを訴える人が多い。

膝を傷めている人には距骨のズレがたいてい見られるというご指摘は、京都の岡野さん(平安コンディショニング)によるものです。岡野さんは、圧痛を探しだして、それを解決すれば、上の方がよくなるという発想法の持ち主です。それで、足首周辺をいじっているうちに、こういうことに気づかれたわけです。特に距骨の位置を直すと肩コリが楽になることに着目された。さすがに肩コリ専門を看板に掲げている値打ちがあります。

距骨については以前に何度か書きました。内くるぶしのすぐ下にあるのが距骨という小さな骨で、これが足首のベアリングのような働きをしています。ですから距骨がズレると足首の動きが悪くなる。また膝が悪い人も、経験的に足首もおかしいことに気づいているはずです。昔から肩コリは足首を触ればよいことは経験的に知られていて、操体などでも常識になっています。しかしそれが距骨と関係しているかどうかは、はっきりしていなかった。

で、距骨が狂っている場合に、どのようにして直せばいいか。色々方法はありますが、さきほどふと気づいて自分でやってみた方法を書きましょう。例によって、朝目覚めたばかりの床の中で思いついた方法です。いわば、採れたての方法です。

まず、内くるぶしの下あたりをあちこち強めに押さえてみる。どこか圧痛を感じるところがあれば、あなたの距骨は内側へズレています。ズレているのだから、元へ戻す方向に押せばいいだろうと考えるのは、素人判断。先日、これで激痛に見舞われた人がありました。距骨が妙な方向へズレてしまったのでしょう。人体は意外にあまのじゃくなもので、無理に元に戻そうとすると反発します。ですから、元の位置へ押し戻そうと考えると失敗します。反対に、ズレている方向へもう少しズラす考えでやってみると、これがうまく行くのです。

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アーモンド

手根骨と指関節の改善

具体的に書いてみましょう。ここで使う原則は、「ズレがあれば、そのズレている方向へわずかに動かしてやれば元に戻る」、というものです。本当かな、そんなばかなことがあるものか、と思う人は、やってみてください。距骨の辺り(位置は骨格図で確認してください)をほんのわずかだけズレている方向へ(つまり内側、親指側へ)押してやるんです。ほんのわずかですよ。しかも強い力はダメで、まあ数グラム程度、台所のハカリがわずかに動く程度の力で、そっと押してやります。そのあと圧痛を確認してください。消えているでしょう。たとえ消えていなくても、少し改善しているはずです。まだ十分でないと思えば、もう一度同じことをすればよろしい。

この方法は、ご存知の人が多い「操体」とも共通しているところがあります。操体の場合も、行きやすい方へ動かす、あるいは動かして気持ちのよい方向へ動かすという原則がありますね。あれと同じです。ただ、動きにくい関節では行きやすいかどうかの確認が難しい。気持ちがよいといっても、どちらへ動かせば気持ちがいいのか分かりにくい。こういう場合はズレている方向へ、ほんのちょっと(見たわけではありませんが、おそらく0.1ミリ単位)だけ動かせばよろしい。そうすると動きにくい方向へも動くようになり、関節の自由な動きが回復します。

言い忘れましたが、どこかに圧痛を感じるのは骨がそちらへズレているからです。ぜんぜん膝の話しじゃないじゃん、などとおっしゃらないでください。膝の話しは、次に出て参りますので。 → 膝痛(5)に続く

( 2010. 06 初出 )