正坐ができた (1)

ながく腰痛(こしいた)を患(わずら)っている女の人がいらっしゃいました。足首がわるくて正坐できないそうです。諦(あきら)めないで下さい。ずれが直ればおおかたは正坐できるようになりますから。

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黄色のコスモス(京都府立植物園

すねとこむらの緊張関係

ずいぶん前、足にものが落ちてきて骨を折ったことがあるそうです。それから足首が痛くて正坐することができなくなったという。でも、足首の周りをよく見ると、それほど悪いところがありそうには見えません。ただ、足首がとても硬くて外側へ動きにくいようでした。

これは足首そのものが悪いというより、すねの後ろにある腓骨(ひこつ)がズレて、足の関節がひっかかっているんです。ひざから上の骨は大腿骨(だいたいこつ)一本ですが、ひざから下は脛骨(けいこつ)と腓骨の二本の骨でできています。

「脛骨」・・けいこつ、すねの骨。「脛」は「すね」を表す字。
「腓骨」・・ひこつ、こむらの骨。「腓」は「ふくらはぎ」とか「こむら」を表す。

ここでちょっと無駄話しを。「こむら」という言葉は今ではほとんど使いませんが、「こぶらがえり」という言い方に生きています。からだについての言葉は、とても古い起源を持つことが多いそうですから、できれば「こむら」という名前も生き続けてほしいと思いますけれど、だれも使わなければ無理でしょうか。例えば、骨の名前を次のように変えれば生き残るんですけどね。明治の学者たちには、もう少しよく考えてほしかった。難しい漢語のほうがいいと当時は思ったのでしょう。でも残念ながら歴史を元にもどすことはできません。

「脛骨」・・すねぼね。下の端は「内踝・うちくるぶし」。
「腓骨」・・こむらぼね。下の端は「外踝・そとくるぶし」。

こむらぼね、なんていい名前だと思うんですけどね。だめでしょうか。昔の本を読むと、肩甲骨のことを「かいがら骨」と書いてあるものがあります。確かに二枚貝の貝殻を思わせる形ですから、いい名前だと思いますが、今は使う人がありません。残念です。

閑話休題。ひざから下にある二本の骨のうち、外側にある腓骨は脛骨より細く、体重を支えるよりもバランスをとるための骨です。いわば脚のつっかえ棒の役割を果たしている。ですから脚のバランスが悪いと、だんだんと下へズレることになります。下へズレるだけでなく、ひざの下を見ると、うしろへもズレています。からだの真ん中を通る線に対して、外側につける支えになっているのでしょう。

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秋咲きのバラ(京都府立植物園)

ふくらはぎの骨を上げる

腓骨の下の端は外くるぶしで、この真下を押えると痛い。これは腓骨が下がっている証拠です。腓骨が下がっていると、足首が外へまわらなくて非常に硬く感じます。これを良くしたいのであれば、腓骨を上げてやればよろしい。

ただし気をつけなければならないのは、わけがあってズレているのですから、ズレを元に戻すだけだと、また次第にズレてくる可能性が高い。なぜからだの重みが外側にかかっているか、調べてみることが大切です。たとえば股関節にズレがあって、ふとももが外を向いていることが考えられるでしょう。

腓骨の上げ方はいたって簡単です。腓骨の上端と下端を両手の親指で押さえます。そうして上の親指の力をすっと抜くと、反動で腓骨がわずかに上方に動きます。これを繰り返すだけです。

そのあと、足首に両手の親指をあてて、残った両手4本ずつの指でかかとをつかみ、繰り返し上下に動かします。すると足首がゆるみます。それから今度は、足首をぐるぐると回転させます。足首のゆがみはこれだけではありませんが、これが主なゆがみと考えていいでしょう。状態が改善されているはずです。

「正座」という書き方が普通になっています。ただ「坐」の字と「座」の字とには意味の違いがあります。もともと「坐」は「すわる」意味であるのに対して、「座」は「すわる場所」を意味しています。ですからここでは画数の少ない「正坐」の文字を使いました。