よく眠れない人

なかなか寝つけない、すぐに目がさめる、夜中になんどもトイレに立つ。こんな不眠の症状が増えているようです。薬に頼るのは感心できません。だれにでも実行できる対策を考えて見ましょう。

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倫敦ディケンズ記念館の時計

なぜ眠れないのか?

目がさえて眠れなくなると、人はいろいろなことを考えますね。なぜ眠れないのだろうか、と考えたりするかもしれません。何も考えなければすぐに眠れるのだろうかと、堂々めぐりの考えに落ち込んだりもします。眠れなくなる原因は何なのでしょうか?

『 光の医学――光と色がもたらす癒しのメカニズム 』(ジェイコブ・リバーマン/著、飯村大助/訳、日本教文社、 原書1991年、訳書1996年)

という本があります。これは優れた本です。読んでみる価値があるとお勧めしてまちがいありません。不眠についてもすぐれたヒントを与えてくれますので、これをご紹介することにしましょう。

光が自律神経を刺激

この本の17ページ。次のように書いてあります。

眼に入った光が視覚のためばかりではなく脳の中で最も重要な視床下部にも送られていることは、1970年代初期になってはじめて科学が実証した。

脳の奥にある「視床下部」(ししょうかぶ)は自律神経の中枢といわれる場所です。交感神経・副交感神経の二つが陰と陽として交錯しあう自律神経は身体のはたらきの大もとです。ですから、ここに光の情報が送り込まれているとすると、ふだん自分の浴びている光が身体の働きにとって、たいへん重要であることが分かりますね。

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もっと光を!――ゲーテ

私はずっと裸電球の下で施術をしてきました。ひどい時には日中ほとんど太陽の光にあたることがない。もしも著者のいうのが正しいとすると、貧しい光だけをあびて一日過ごしていることになります。現に、忙しい時は確かに日光にあたることが少なく、そう言われれば眠りが浅くなっていました。

人工の光ばかりに頼っている現代の生活は危ないのではないかと、『光の医学』は警鐘を鳴らしています。しかも裸電球の光は赤っぽくて、日光とはスペクトル(光の成分の混じり具合)がまったく違います。そこで私は裸電球を止めて、「フルスペクトル電球」という太陽の光に近い電球に換えてみました。これで確かに眠りの質が上がり、ぐっすり眠れるようになりました。いま朱鯨亭では、この電球を使っています。

紫外線は本当に有害か?

光の中でも紫外線、とりわけ波長の短いB紫外線は有害だということになっています。紫外線を浴びないようにしないと、皮膚がんなどの恐れがあるというわけです。紫外線除けのグッズがたくさん売られていますね。

ところが著者リバーマンは、この考え方に賛成しません。本当に紫外線でそれほどの被害が出ているのか。人類はこれまでの歴史を通じて日光なしで生きてきた時代などない。紫外線の有効性にも眼を向けなければならないのではないか。紫外線をあびることで人の身体はいい影響を受ける。光は人のたべものと言っていいくらいだ、といい、紫外線の効用を列記(152ページ以下)しています。

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京都府立植物園のオニゲシ

・ ビタミンDの合成を促進する。
・ 血圧を下げる。
・ 心臓の力を高める。
・ コレステロールを減らす。
・ 皮膚のホルモンを活性化する、 など。

また次のような研究成果を引用しています。「オーストラリアやイギリスでは、黒色腫が発生する割合は、専門職やオフィス労働者の方が野外労働者より高い」(165ページ)。とすると、紫外線が危ないという常識は考え直さないといけないでしょうね。紫外線には危険な作用があるとしても、プラスの働きもあるとしたら、むやみに紫外線を排斥するのは考えものです。

日光は人間にとっても必要

紫外線を含む日光には、このように色々な効用があるから、「毎日の生活環境の中での日光の重要性を見落とすことによって、慢性的な病人を作り出しているのかもしれない」(43ページ)と著者はいいます。不眠も光との結びつきで考えることが必要でしょう。

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光と関係する脳の部分

光が生物の昼夜のリズムを作っているという考え方が以前からあり、実験で証明されています。光の信号が視床下部にも届いているだけでなく、視床下部を通じて「松果体」(しょうかたい)にも届いている。松果体は体内時計の重要な部分で、視床下部のさらに下にある部分などと協同して体内時計が動いていることが、今では分かってきました。リバーマンは、松果体が「第三の眼」、「心の本拠地」、「身体の光度計」などと呼ばれることもあると紹介しています。

人の体内時計が25時間のサイクルになっているという説は、どこかでお読みになったことがあるでしょう。25時間のままだと、自然の時間とずれてきますから、毎日1時間だけ調整が必要です。そのためには朝の太陽光を浴びるのが一番。というより朝の光を浴びて一日を始めるように人のからだはセットされているに違いありません。朝の光は自律神経の働きにとっても望ましい作用をする。逆にいうと、不眠の人は調節作用がうまく働いていないことになりますね。昼と夜とがズレて来ているのでしょう。

やはり早寝・早起きは三文の得

夜は早く寝て、朝は早く起き出し、朝日を浴びる。いま私は、このような生活を実践してみています。夜は10時までに寝る。朝が早いから、眼を閉じると間もなくグウスカと寝ているらしい。朝は4時か5時に起きる。5時とすると、これで睡眠時間は7時間ありますから、私には十分です。4時でも差し支えない。夏は5時になると、もう明るいですから、起き出すとさっそく散歩に出かけましょう。規則正しい生活をすれば体内時計がうまく働くようになり、不眠が癒されます。

紫外線など気にせずに朝日をたっぷり浴びよう、というのが提案です。でも、そんなことができる暇はない、というほど働きづめに働いている人が多いのだろうか。だとしたら、どうすれば生活を変えられるかを考えなければなりませんね。