野球ひじ

野球少年たちにとって「野球ひじ」と呼ぶ症状は恐怖らしい。どんな風になっているのでしょう。

gilia
ギリア

野球肘というもの

野球部員の高校生Kくんが来ました。肘(ひじ)を故障し球が投げられなくなった。内視鏡を使った手術を受けてかなり改善した。でもまだ投げた時に違和感が残り気持ちよく投げられないと訴えます。

右腕と右肘に触れてみました。前腕の橈骨(とうこつ)・尺骨(しゃっこつ)の二本の骨が開いています。それから肘鉄の突起といえば分かり易いでしょうか。肘の後ろの出っ張りの内外に少しだけ凹んだ箇所があります。親指側と小指側とに凹みがあるので掌(てのひら)を上にして確かめてみて下さい。小指側の凹みを指で少し突くと飛び上がらんばかりに痛いらしい。

これは「野球ひじ」と呼ぶ典型的な症状らしい。ネットでウィキペディアの「野球肘」の項目を開くと次のように書いてあります。 → 野球肘

「主な原因として、投球フォームに無理があることが考えられる。フォームの欠点は人それぞれであるが、多くの場合投球のリリースの際に上体が開いている(正面を向いてしまっている)ことにより、肘が体から遠くを通り、肘にかかる負担を大きくしていることによる。」

この記述では何が原因なのかサッパリ分かりません。かりに私がここに書き加えようとしても、ウィキペディアは厄介なことに「出典主義」で、筆者の独自研究は排除されます。技術的なことに関しては、こういう毒にも薬にもならない記述でお茶を濁しておくしかないのでしょう。でも、「投球フォームに無理があると考えられる」なんて、それこそ独自研究じゃないのでしょうか。私なら「主な原因は投球フォームの無理である。」と曖昧さを残さずに書きますが・・・

murasaki
ムラサキ

肘が歪むわけ

それはさておき、肘を改善させなければなりません。肘がおかしい人をみると、必ず橈骨が下っています。まず橈骨と尺骨の開きを少し改善させて橈骨が下っているのを修正しました。次に肘の痛む箇所の反対側=肘の親指側の凹みから愉気(ゆき、指を当ててジッとしている)をしました。時間にして両方で5~6分でしょうか。さてこれでどうだろう。強めに押えてみても痛くありません。K君は球を投げる真似をします。

── あ。まったく違いますね。
── 外へ行って石ころでも投げてみたら。
── はい。そうしてみます。

その間にクルマを運転して来られたお母さんに肘が悪くなったメカニズムについて腕の模型を使って説明しました。

── この前腕のところに骨が二本ありますね。この二本が開いてきます。
── あー。はい。
── そうすると肘のところでも二本の骨に開く力がかかりますね。それで球を投げたりして強い力がかかったとします。肘の関節のこの骨は通常はこんな風に曲げ伸ばししているだけです。ところが開く力がかかっているため僅かに内側へズレてしまうんだと思います。
── へえ。そんな簡単なことなんですか。
── ええ。簡単なことだから簡単に直るわけです。たぶん手術する必要はなかったと思います。

silene
シレネ

肘のズレの影響

そう話しているところへK君が戻ってきました。お母さんが尋ねます。

── どんな具合?
── もう大丈夫。
── よかったね。

操法をしている方々のために少し付け加えておきます。肘関節は尺骨と上腕骨との関節です。ふつうこの関節は曲げ伸ばしするだけですね。橈骨・尺骨の間が開いているとします。すると尺骨側に開く方向の力がかかっています。そこへ球を投げるなどの強い力がかかった時に関節がズレてしまうわけです。正常ならありえない内側へのズレを起こしてしまう。そのために内側上顆の横の凹みに痛みが発生します。野球肘の正体は肘関節の内側への微小変位にありました。

もう一つ。野球が原因でなくても肘のここのところに押すと激痛を感じる人がいます。そのために上腕が引っ張られ、肩や首がおかしくなっている例が数多くあるようです。肩がおかしいという人に対しては、肘を調べることが必須であると言っておきましょう。

( 2013. 01 初出 )