整体師を目指す

整体師になりたいと言って来られる方が多くなりました。どこの街にも整骨院、整体院の類が林立しているので、すぐに商売として成りたつ錯覚があるようです。でもちょっと待ってください。

観察力が届くか

例えば、ぎっくり腰の後、痛みが残ってとれないと言って来たS青年。これまで整体院2軒に行ったが、「そんなにすぐには治りませんよ」と言われたそうです。すぐには治りませんよ・・・と私が言うとすれば、自分の未熟さを恥じている時です。どこかで私の観察が足りず、解決できていないことが悔しい。

kofukujipagoda
興福寺五重塔

腰痛には共通したゆがみ方があり、一つ一つ解決してゆくと痛みゼロに近い状態になります。痛みゼロそのものは整体の目的ではありませんが、その技量がなければ全体をよくすることが難しいのも事実です。いったん痛みゼロの状態になればいくらか戻ることがあっても、後は難しくありません。ところがゼロに近づかないケースがある。神様が私に「どうだ、やってみるかね」と挑戦して来ているような気がして悔しい。何くそと色々やるうちに、時間いっぱい(1時間の枠でやっていますから、1時間ぎりぎり)でゼロになることが多いですね。すると、神様が「うん、よく頑張った、この辺で許してやろう」と言ってくれている気がしてね。

でも、どうしてもだめな時があるんですよ。観察力が届いていないんです。状態が複雑で急所が見えにくいのか、あまり経験したことのない状態があるのか、それは分かりませんが、後になって、こういうことだったのか、と頷(うなづ)くケースにぶつかることが多いものです。そういう複雑な状況をかかえた人を私のところに送り込んで、神様が私を試しているような気持ちを持ちます。いや、でも私は神様や仏様を信じていない、神社仏閣でも手を合わせないと公言していますから、「神様」という言葉を使わないでもかまいません。「宇宙のパワー」・「創造主」とかでもいい。人知の及ばない何かの力が助けてくれる、という気持ちを持ちます。

孤独な戦い

S青年は体のゆがみ方が尋常ではありませんでした。普通には見られない奇妙なゆがみ方をしていたんです。「あなたのようなお客様はたいへんありがたい。こういう人はめったに見かけないので、たいへん勉強になるんですよ」といいながら、青年の体を表向けたり裏向けたり立ってもらったりしながら観察する。痛みをゼロに持っていくことは、どんな風に歪んでいるかを解明することです。解明できなければ痛みはなくならない。

national museum
奈良国立博物館

1時間の真剣勝負です。この歪みは何なのかと不思議に思ってSさんに尋ねると、遊技場で仕事をしていて、重いものをおかしなかっこうで持つより仕方がない、その姿勢は避けようがないという。仕事が複雑怪奇な歪みを生み出していたんです。

このややこしい痛みは、さいわい短時間で解決しました。でも、いつもうまく行くとは限りませんから、整体師になろうとする人は、孤独に耐えることが必要です。孤独を表に見せず、にこにこしていなくてはなりません。人に言われたとおりにやれば何とかなるような仕事、マニュアル仕事ではない。それどころかマニュアルから外れた人しか来ないと思っていなければなりません。Sさんのようなややこしい歪みかたの人に、電気とやら光線とやらを当ててよくなる道理がありませんから。

全霊をかたむけて

覚悟があり、孤独に耐える資質をそなえている人が、私のやり方を身につけて下されば、技術をクリアできる可能性はあります。その可能性のために私は整体実習の時間を設けています。志す方はぜひ全霊・全力をかたむけてほしい。しかし孤独に耐えられない人、だれかに頼ったりマニュアルに頼ろうとする人には難しいかもしれません。

アマチュアで実習に来られる人もあります。家族や友だちのからだが見られれば、とおっしゃる。しかし家族や友だちのからだをみるのは実は難しいともいえます。妙な先入観が入りやすいですからね。アマチュアでも真剣勝負で取り組んでもらいたいのは同じです。アマチュアだから気を抜いていいということにはなりません。

別のところにも書きましたが、整体の過程は 〈 観察 〉 ・ 〈 判断 〉・ 〈 実行 〉・ 〈 確認 〉の4段階でできています。整体の要点は観察力と判断力です。どこがどうなってこういう状態になっているのか、それを見抜く力です。実習に来られる方は、それを身につけてもらいたい。こういう時はこうするという技術に目を奪われてはだめです。何をどう観察するのか、それが問題だ。観察力を養うために、朱鯨亭の実習コースに2回以上重ねて出るのも一つの方法です。それから施術の見学をすること。朱鯨亭ではすでに実習に参加した人、または参加中の人の見学を認めています。よく見て真似をすること。これが学ぶことの極意でしょう。

大げさなところは避ける

いい整体処を探す極意でもあるわけですが、朱鯨亭まではあまりに遠いという方が、実習・セミナーを実施している整体処のウェブを見分ける方法を書いておきます。コツは簡単。「大げさなことを書いているところは避ける」。この一言につきます。うちで実習を受けたら何でも整体で解決する、みたいな書き方のところは避けることです。そんなことができるわけがありませんし、施術でほんとうに苦労を重ねている人は、決して大げさなことを言わないでしょう。むやみに高額を要求するところも避けるのが無難です。そして何よりも施術を受けて、効果のほどを見ることです。

(2007. 02 初出、2008. 12 改訂)