操体法のパワー

行きにくい方から行きやすい方へ、楽な方へからだを動かす――。たったそれだけのことでからだの硬さや痛みがとれます。だれでもできるこの方法を使わない手はありません。

楽なほうへ

橋本敬三さん(ウェブの百科事典ウィキペディアを参照)が作り上げた「操体法」という方法は、今ではずいぶん知られるようになりました。私がはじめて橋本先生の本を知った時とくらべて、大きな変化です。原理をひとことでまとめると、「行きにくい方から行きやすい方へ」。この一行で終わりです。あるいは、もっと短くまとめると、「楽な方へ」

hashimoto keizou
橋本敬三先生(1897-1993)

例をあげてみましょう。読者の右手の平を上向きにしてみてください。そして手首を手前と向こうに曲げてみます。どちらの方が曲がりやすかったでしょうか。私の場合は、手前に曲げるのは抵抗があり、向こうに曲げるのはラクです。こんな場合、まず手首を抵抗がある方にまげて、そこからゆっくりと向こうへ倒して行きます。そうして6割ほど倒したら、そこで力を抜いて、いっきに向こうへだらりと倒してしまう。これを3度ほど繰り返します。そしてもう一度、手首を手前に曲げてみる。

どうです。手首の抵抗感がすっきりと取れて、ラクになったでしょう? これが、からだのどの関節にも応用できます。そっとやれば、指の関節にさえ使えます。操体法の本を読むと、いろいろ書いてありますけれど、煎じ詰めると操体法は、これだけのことです。ですから、整体の技術について何もしらない人が、ともかく痛みを止めたいと思ったら、操体法がいちばんです、といっておきましょう。

柔軟な考え方が大切

ところが、このカンタンなことで、どれだけの成果を挙げるかとなると、大きな差が出てきます。この方法をどの関節に使うか、これが鍵になる。そして、もう一つは、この方法が使えない時、使ってもあまり効果が出ない時にどうするか。その対処法を持っているかどうか。これが分かれ道です。

操体法がだれにでも使えるやさしい方法だからといって、これで例えば慢性の腰痛を即座に直すことができるか、となると難しいことが多い。長く続いたしこりが操体法ですぐに取れるかといえば、それが難しいからです。一つの方法に固執しようとする人が時にいますが、そういう人に贈りたい言葉―― 「いつもそうだとは限りませんよ」 (アガサ・クリスティ)。

慢性腰痛の男性

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晴れ上がった奈良盆地

慢性の腰痛となると、からだの筋肉がカチカチになっていることが多い。押せども引けども、こんなのをすぐに柔らかくするのは難しい。しかも痛みがなくなっていることが多いので、どこが悪いのだかよく分からないことも多い。もうお手上げにしてしまいたい、なんて思ってしまうことさえあります。

先日、遠く富山から来られた方などは、この典型でした。立ち上がった時などにさし込むような痛みがあると訴えられるのですけれど、あちこち押してみても、どこも痛くないと言われる。ふだん使っている原則にもとづいて、腰まわりの歪みをとれるだけ取り除いてみました。これでかなりよくなったのは確かなんですが、まだ奥の方に痛みの芯があるといわれます。

その方は操体法のこともよくご存知で、実は操体法をやっているところへ行こうかと思ったんですよ、と言われる。私は、操体法が威力を発揮するのは、こういう時です、と申し上げた。そうして、ひざ・股関節などに操体法を5~6回使ってみました。そして、さあ立ち上がって見て下さい。「・・・あ、痛みがありません」。

何でも操体法で解決すると考えるのではなく、ゆるみにくい慢性の硬さを他の方法でゆるめ、それから場所のはっきりしない症状に対して操体法を使ったのが、この場合の成功の鍵でした。一つの方法を過信しては失敗するが、別の道もあると知っているとうまく行くことが多い。別の道にも通じておくこと。これが教訓です。整体に限らず、何でもそうでしょうが。

(2006. 10 初出)