体の中のつながり

体の中には、目に見えるつながりと目に見えないつながりがあります。一人ひとりの生活が自分自身のからだを知らないうちに良くも悪くもしているのではないでしょうか。

collar
カラー(collar)と小さな昆虫

目に見えないつながり

実習に参加している人から色々な質問や意見をいただくことがあります。ある日、次のようなメールが届きました。

「今朝の通勤時のこと。いつもは右手でつり革につかまるのですが、立ち位置の関係で左手でつり革を掴みました。すると、左の眉から頬・上あごの辺りの骨がメリメリと動く感じがしました。吊り輪を軽く握っていたので、左手の第二関節を曲げて指をかけていた状態です。
今までも左手でつかまることが皆無だったわけではないのですが、このような動きを感じたのは今回が初めてです。毎日、何気なく同じ側の手でつり革を掴んでいることも、左右差を作る原因になるのかもしれませんね。」

何気なく読むと、ふだん使わない左手に力をかけたので左側が動いたのだろう、と考えて、特に疑問を持たないかもしれません。でも必ずしもそうではないと思います。なぜなら「足ツボ」や「耳ツボ」と同じように、手には多くの共鳴点があって、言ってみれば多くの「手ツボ」が存在するからです。つり革につかまるという動作をしただけで共鳴点に刺激が入り、体のあちこちが反応したとも考えられます。体のあちこちには、互いに離れた二点間に見えないつながりがある、といっておきましょう。

camille
マーガレットの花と
ハナムグリ

体の内側を観察する

鋭い「内的観察力」といいますか、体の内側の細かな反応を感じとる習慣がつくようになると、このようなことを感じる場合があります。個人差がありますけれど、体にちょっとふれただけで、「あ、どこそこが動いている」と報告してくださる人も時々あります。また、人によっては手の甲に触れただけで、「それは、どこそこに響いてきます」と教えてくださる方もあります。それが確かに共鳴点からの刺激が届く場所を指しているので、こちらが驚いてしまうこともあり、体の内側を観察する力が元々だれの体にも備わっているのではないかと感じられます。

では、すべての人がそのような力を持っているのかとなると、かならずしもそうとは言えません。人によってずいぶん感じ方が違うようです。とても鋭い感覚の持ち主がある反面、何も感じない人もいます。鋭い感覚の持ち主なら、私のいう意味がすぐに納得できるかもしれませんが、そうでない方もいるでしょう。その違いがどこから来るのかは分かりません。その人のこれまでの経験、生活によって違ってくるようですが、生まれつきのものがあるのかも知れません。

目に見えるつながり

もう一つの実例。こちらは「からだほぐし教室」に参加していらっしゃる人です。「鼻の下が長い」とか「鼻の下を伸ばす」という言い方があるけれど、文字通り鼻の下をのばしてみると、背中がゆるむ感じがする、とおっしゃるんです。真似てやってみてください。そう言われれば確かに背中が緩んで来る感じがします。身体の皮膚はつながっていますから、普段あまりやったことのない、鼻の下を伸ばすという動作をすると、頭を経由して背中の皮膚や筋肉がわずかながら引っ張られるのでしょう。腰のあたりまで緩む人がいるかもしれません。

この例では、特に共鳴の関係があるわけではなく、遠くまでつながりがあるということですから、遠くまで筋肉や骨の動きによって離れた二点間に見えるつながりがある、といってもいいでしょう。

digitalis
ジギタリス(花空間けいはんな)

離れたつながり

この二つの実例から知られるのは、体の一部を動かしたり姿勢を変えたりすれば、そこから離れた場所が動いて体に変化が起きているかもしれない、ということです。離れた場所同士のあいだに、観察できるつながりがあるかどうかは分かりません。観察の難しいつながりかもしれません。あるいは、十分に「内的観察力」を使っていないと気づかない程度かも知れません。ここで私が「内的観察力」と呼んでいるのは、例えば、中指の付け根をじっと反対側の親指と人差指でつまんでいると、頸(くび)の周りがじわっとゆるんで来る、といった微妙な感覚が分かる能力です。

さて、このような離れたつながりによって体が変化します。ですから、このような変化を意識して使えば、からだにとって好ましい変化を生み出すことができます。整体に私が使っているのは、このような変化です。

でも意識しないで起きる変化は、好ましい変化だとは限りません。意識しない刺激が入るのなら、それは好ましくない変化かもしれません。もしも好ましくない変化が起きたら、それが積もり積もってくると、やがて筋肉などが硬くなって元に戻らなくなってくる。「姿勢が悪いからだ」といわれるのは、こんな場合でしょう。でも、姿勢を正しくと言われても、実際にどうすればいいのか分からない、とおっしゃるなら、とりあえず横坐り・脚組み・腕枕といった左右対称を破り続ける姿勢をやめることでしょう。どうしてもやりたいなら、左右を交互にして、影響を最小限度に抑えることです。

同じような理由で、腕時計やブレスレット、指輪、ピアスなどをしていると、常に体に刺激が入っていることになります。また金属類を身につけていると、違う種類の金属の間に弱い電位の差が生じて、微弱電流が流れるという考え方があります。この微弱電流や、弱い刺激が現実にどのような影響を与えているかを測定するのは簡単ではありません。影響があると断言する人もいますけれど、今のところ私には何ともいえません。でも影響が気になるなら、考え直した方がいいかもしれない。すっかりはずしてしまうか、左右交互にすればどうでしょうか。

* なお、このページの写真はすべて「花空間けいはんな」(京都府精華町)で撮影したものです。花が素晴らしく、とてもゆったりした空間でしたが、惜しくも閉園されました。

( 2008. 06 初出 )