緩まない身体を緩める

身体を緩(ゆる)められないと訴える人が増えています。ゆったりと風呂につかれば疲れが抜ける ―― これまでは湯治に行くのが緩めるこつでしたけれど、事情が違ってきたようです。 どうなっているのか、じっくり考えてみることにしましょう。

自律神経がおかしい

「私はリラックスすることができないんです」 と訪ねてくる人がいます。いる、というよりも、 多い、といった方がいいでしょう。来る人、来る人、みんなそんな感じといえばいいでしょうか。 どうなっているんでしょうね、これ。

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バラ

リラックスできない のは心の問題でもありますが、 からだの問題としてみれば 筋肉や神経がゆるまない ということでしょう。 自律神経は交感神経と副交感神経の二つでできていることは知られているでしょう。 交感神経がはたらきっぱなしで副交感神経が働かない。つまり 「自律神経の失調」 とよばれているものです。 まわりすべて自律神経失調の患者というありさま。これじゃ、「自律神経失調」 といったって、 病名にもなりませんよ。正常に見える人がみんなそうなんだから。

交感神経はどんな時に働くかと考えてみると、何かが攻撃してきた時、脅威が迫ってきた時、 身構えなければならない時 ―― そんな時ですね。そうすると、リラックスすることができない、というのは、 つねに身構えているような状態ということになります。そういう人がたいへん多くなっているのが、 今の世の中だ。

なぜ、こんなことになっているのか、といえば、自律神経のコントロール・タワーである脳幹の部分が、 常に臨戦状態になっている、ということでしょう。脳の深いところが休まない状態です。したがって、 不眠が増えているのもうなずけます。寝つきが悪いという人もたいへん多い。

スピードが速すぎる

こうした現象の原因の一つは、速さ ではないでしょうか。身の回りで起きる事柄の変化がたいへん速い。 テレビのないときだったら、現場にかけつけるのに数時間とか数日とかかかったわけです。 ところが今では、たとえば地震があったといえば、すぐテレビをつける。 まもなく地震のニュースが流れるというぐあいで、情報が伝わるまでが大変に速い。 これが脳の異常緊張を招いているのではないだろうか。つねに臨戦態勢でなければ対応できなくなっている。

毎日、来る日も来る日も近所から聞こえてくるのはテレビの音です。それも、ほとんど一日中鳴っています。 日本全国のお年寄りが、テレビを前にしてじっと座っているに違いない。この光景を想像すると、 老人の不眠が増えている理由がわかる気がします。多くの老人が睡眠薬などの向精神薬を飲んでいるらしい。 そりゃそうでしょう。一日テレビの前に座っていれば脳が休まらないはずですよ。しかも身体は たいして疲れていない。それでは眠れるはずがない。

呼吸が弱くなっている

リラックスできない理由は速さだけではない。例えば今あなたは、じっと電脳の画面をにらんでいる。 他人の書いたものを読んでいるだけなら緊張しなくても大丈夫ですが、 自分が書くほうに回っている時は、熱中すると何時間も電脳にはりついていますね。

buttercup
キンポウゲの花

先日やって来たL さんは、電脳に8時間くらいは張り付いていることが珍しくないと話していました。 そんなに熱中すると、呼吸をほとんどしていない状態になる。たとえ呼吸はしているとしても、 弱い呼吸 になっています。そうするとからだが取り入れる酸素の量は非常に少なくなりますね。

その結果どうなるか。からだ中の組織のガス交換がうまく行かなくなる。 疲労物質がたくさん蓄積されるようになることでしょう。L さんは、 忙しい時に身体のあちこちが痛くなるといいます。蓄積された疲労物質が痛みとして現れているわけでしょう。

こうなると当然ながら筋肉が硬くなります。ゆるめようとしても、ゆるまないということが起きてくる。 ですから、意識して深い呼吸をすることがぜひとも必要です。

身体を緩める呼吸法

緊張というかストレスというか、そういうものを溜め込む原因は、もちろん他にもあるでしょう。 家族の関係とか、思うようにならない職場の人間関係とかね。いまここで大きな要因として取り上げたのは、 スピードの速さと呼吸の浅さでした。この二つを同時に解決できる方法の一つは、 何といっても 呼吸法 でしょう。呼吸法の詳しいことについては、 「呼吸法の勝利」 の項目をお読みください。