歪(ゆが)み系

足の裏から始まるつっぱりが、ずっと上に続いて、首にまで影響しています。このつながりを辿ってみましょう。

tutankhamun
ツタンカーメンの豌豆

外くるぶしの下が痛い

足の裏の親指の付け根から始まり、外くるぶし → 腓骨 → 膝とつながる「長腓骨筋(ちょうひこつきん)」という筋肉があります。一番下の端は足の親指の付け根あたりで、足裏を斜めに横切り、かかとの前から外くるぶしの下を通って、脚の外側にある腓骨に沿って上がり、膝の外側やや下にあるぐりぐり、つまり腓骨頭までつながっている筋肉です。

この筋肉の一部、くるぶしの近くで腱になっている部分があり、押すと痛いことがあります。外くるぶしから下に鉛直線を引き、足底との中点をとって、その1センチほど後ろを少し強めに押してみますと、左右どちらかの足で痛みを感じます。人によっては左右とも痛いかもしれませんし、あまり感じないという人がいるかもしれませんが、何かの違和感を感じる人が多いことでしょう。

痛みか違和感を感じた人は、足底の親指の付け根にある膨らみ(拇指丘)の手前を見てください。足指を反らせてみると、拇指丘の土踏まず側からかかとの外側にかけて、斜めに硬いスジが走っているのが分かるでしょう。これを手の指で少し強めに何度も押してみます。ボールペンの尻や指圧棒のような丸みのあるもので、ごしごしこすってもいいです。人によっては、誰かにやってもらうと大変くすぐったかったり、痛みがあったりするでしょう。しばらく緩める作業を続けてから、さきほどの外くるぶしの下を押してみると、痛みが消えているか、弱くなっていることがわかります。この筋肉のコリ(拘縮)がなかなかのくせものです。

anemone
アネモネ(いずれも京都府立植物園)

足から首までつながっている

「長腓骨筋」から後のつながりを解剖図で辿っていきますと、太ももの裏にある大腿二頭筋 → お尻の下にある坐骨 → 坐骨と仙骨を結ぶ仙結節靱帯(せんけっせつじんたい)、という順序でつながっていることが分かります。仙骨から先は、背骨の左右を連なっている脊柱起立筋という筋肉群(いわゆる背筋)につながり、ずっと首のところまで続きます。

この長腓骨筋 → 大腿二頭筋 → 仙結節靱帯のような筋肉・靱帯の繋(つな)がりは、その表面の「筋膜」の繋がりとして捉えるのが適当であることが知られています。例えていうとソーセージですね。中の「身」が筋肉、外の「皮」が筋膜というわけです。そしてソーセージが繋がっている全体は言ってみれば腸詰です。腸詰はソーセージがいくつも繋がったような構造をしていますが、あれとよく似ているといえば分かりやすいでしょう。ソーセージの皮がどこかで捩れると、その捩れのために、隣のソーセージの皮もねじれたり歪んだりする。そういう関係です。で、もしもこのような繋(つな)がりが筋膜のあいだに本当にあるなら、下の方を緩めることで首まで緩むはずです。実際これを、「筋膜リレーション」などと呼ぶ人もあります。もしも「筋膜リレーション」が足から首まで繋がっているなら、下の方を緩めると首まで緩むはずですね。

これを整体講座に参加されている皆さんに試していただきました。私は組む相手がいないので、淋しく自分で歪み系を緩めたのですけれど、終ってみると、緩めた左側は首がユルユルになり、首の右側はコリが残っている状態でした。他の方も同じような感想でしたので、反対側も少しやっておく必要があるだろうと、皆さんに反対側もやってもらいました。首の左右に大きな差があると、頸椎をひっぱる力が違うからでしょうが、頸椎が歪んできます。ですから、首を結果として緩めるような操作は、両側が緩むことを目指さなければなりません。

この操作によって、首が大きく緩みました。上にも書いたような拘縮リレーの関係、つまり足裏 → 外果 → 腓骨 → 膝 → 大腿 → 坐骨 → 仙骨 → 脊柱起立筋 → 首、というつながりが確認できたことになります。これを「歪み系」という名前で呼びたいと思います。「筋膜リレーション」と呼んでもかまいません。この連鎖が身体のあちこちの歪みと密接に関係していることが明らかです。いま私自身の背中を触ってみても、確かに起立筋が緩んでいます。これで起立筋の張りが足の裏まで繋がっていることが実証できました。

このような連鎖は、これまでにもいくつかの整体流派によって部分だけ採り上げられることがありました。あるいは全体像だけが描かれていました。しかし、具体的にどの筋肉や靭帯がどのように繋がっているのかは明らかになっているとは言えません。それが姿をはっきりと現したことで今後は、歪みの連鎖をどう断ち切れば症状が消えるか、と考えることが可能になります。

例えば、左ばかりあちこち具合が悪い人がいます。左肩がすごく凝っていて、左腰が痛く、左の膝や足首も悪い、というような人です。こんな人は、歪みの連鎖を辿っていくと、かならずあちこちに不都合な拘縮があるはずで、連鎖を考えながら緩めていけば問題が解決に向かうはずです。

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アーモンド

外くるぶしの斜め下

膝に戻りますと、膝はこの連鎖の途中にあるわけですから、下からと上からと、二つの方向から問題を解決して行くと、膝の問題が解決できると考え、操法を進めることができるはずです。事実、膝が悪い人は腰が悪いとか、足首が悪いという関係があります。膝だけ直してもだめなのは、腰や足首がよくなっていないからだ、ということが分かります。関係のなさそうな足裏なども膝と関係していたりするわけです。

それから足と顎とが筋膜のつながりの終点であるという『歯はいのち』(文春文庫)の主張が少なくとも中間の領域で実証されたことになります。とはいえ顎がどの程度かかわっているかを確認するのは、今後の課題になります。もちろん、人によっては『歯はいのち』の著者がすでに確認したことだから、それをそのまま使えばいいじゃないか、というかもしれません。他の人の方法を信じて、そのまま受け入れることも可能です。

でも慎重居士の私は、途中の過程が確認できないと、なかなか自分の中で納得できないんです。また一旦受け入れた方法でも、その後でこれは改良が必要だとか、これは欠点があるとか、そういうことが明らかになれば、その日から使うのを止めます。逆に、なんだか怪しげな方法に見えても、試してみて、これは使えるとなれば、すぐに使います。ですから特にこの頃は、やり方が毎日かわっていると見学の人に批評されています。

講座やセミナーに出席されている方々も、誰それがこう言ったというので、簡単に信用したりしないでください。かならず自分の手と目を使って確認し、何がどう繋がっているかを見極めてからでなければ、本当に生きた技術になりませんから。いまお話している「歪み系」も、同じことです。私が言ったというのは、少しも正しいという保証にはなりません。

最後にもう一点「歪み系」について付け加えます。これまでだったら原因不明として放置されていたような症状も解決できるようになるはずです。私の場合、そのような例がこのところ続きました。先日は足の裏が痛いという人が来られて迷いましたが、この連鎖に気づき、わりあい簡単に解決しました。このような実例については、また次の機会にとりあげたいと思います。

( 2010. 04 初出 )