力が抜けない

仰向けになってもらうと、よく見かけるのは身体に力が入ったままの人です。脚の力を抜いてくださいとお願いします。すると一旦ぐっと脚に力を入れた後で力を抜くか、または脚をぶるぶると震わせて力を抜こうとする。それでうまく力が抜けているかといえば、なかなか抜けていません。初めて整体に来た人なら緊張して力が抜けないのも分かります。けれど、たびたび来ている人でも、力の抜けない人が多いように感じます。なぜでしょう。

hachiko
渋谷のハチ公

抜き方が分からない

多くの人が昼間ほとんど常に緊張していて、力を抜くということが感覚として、分からなくなっているのではなかろうか、というのが感じさせられることです。朝起きると、もう出かける支度をしなければなりません。すぐにPCと取り組んでメールを読むという人も多いに違いない。直ちに緊張が始まります。さて、朝食を5分でかきこんで駅に向かう。

この前、東京で見ました。もう朝からぐったりと疲れていますね。元気な顔もあるのでしょうが、あまり見かけません。東京圏は通勤に2時間という人も多いから、それもやむをえないのかもしれません。それと黒の隊列。あれもすごいですね。驚きました。もたもたしていると蹴飛ばされそうになる。駅のダッシュですでに緊張の極点に達しているのでしょうか。

職場に着くと、今度はPCと格闘です。私も休日に一日PCと取り組むことがありますが、夕方になると、へとへとになっています。あれを日々の課題として繰り返すのは、大変なことだと思います。自分自身を振り返ってみて分かりますが、PCを使っていると1時間程度はすぐに経ってしまう。緊張がずっと続いているんですね。力が抜けていない。それを毎日繰り返していれば、自然に力の抜けない身体になってしまっても不思議ではない。中でも特に影響が顕著なのは首でしょう。首に力が入ったままになっている人が多い。

tyozuya
調(つき)神社、兎の手水

首の力が・・・

確かこの前ご紹介した本のどこかに、15分ごとに警告音が鳴るようにセットした装置を用意して、強制的に首を緩めるというのがありました。そうでもしないと、力を抜けないのかもしれません。整体に来る人の訴えのうちで、もっとも多いのは首の凝りではないでしょうか。腰痛などをかかえて来た人に、他にどこか痛いところはありませんかと聞くと、「首ですね」とか「首が凝って」とかいいます。

私自身は最近、ほとんど首の問題を感じることがなくなりました。対策は肘を緩めることです。一日PCに向かっていると、ほとんどの人が腕を内側へ捻っています。マウスとキーボードですから。そうすると、どうしても肘の親指側にある橈(とう)骨が小指側にある尺骨に対して捻れて来ます。捻じれることで、橈骨が上腕骨にくっついている関節が開いてきます。すると掌を上にして腕を伸ばした時に、肘の親指側に圧痛を感じます。これが肩や首に対して大きな負荷をかけています。

ですから、首に問題を感じれば、まずは肘を緩めることです。どうやって肘を緩めるか。簡単です。掌を上にして肘を伸ばすと、肘関節の外と内に二つぐりぐりがあるでしょう。この位置から2センチほど手先側を探ると、橈骨と上腕骨の関節があります。ここのところを腕の内外の両側から反対の手で押さえつけて、手首をぐるぐる回します。特に外側は、橈骨の上の端を中指の先で手前に押さえる感じでやれば、さらに効果的です。内側の尺骨側は、ただ親指で押さえているだけでよろしい。これで20~30回ほどぐるぐる回します。

すると、下がって捻れていた橈骨が少し上がるのと、橈骨・尺骨のあいだが締まってくるのとで、肘全体が緩みます。これが肩から首によい影響を与える。あとは、しばらく寝ていることです。すると他の部分も緩んでくる。

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春日大社、亀と龍の燈籠

肘を回すと・・・

先日、鹿児島の方が首を痛くしてメールで質問して来られました。鹿児島から朱鯨亭まで行くのは辛いですから、上の方法をお教えしたところ、数日後に「起き上ったときに、まず驚いたのは左右の肩の下方向が見えたことでした。首を下げたり、そのまま左右に動かすと背中が痛くて出来なかったからです。左肩はカチカチでつまめなかったのに、柔らかくなって指で肉を掴むことが出来ました」と、お便りをいただきました。

それはなによりです。ご報告ありがありがとうございました。いつかも書いたように、ご質問をいただいても、メールで書ける程度の簡単な解決法があるとは限りません。状況を書いていただいても、判断に苦しむケースが大半です。この場合は問題が肘であると特定でき、比較的簡単に解決できそうなので、お返事をお送りしたわけです。

ただ、他にも肘の問題はあるので、その場合これだけでは解決しません。しかし、基本はこのぐるぐる回しです。肘の先を締め付けておくのが少し痛い人があるかもしれませんが、大したことではありません。寝違えなどでも、これでかなり改善します。

力が抜けない現象をすべて解除するには他にも色々な要因があって、簡単に解決する課題ではありませんが、腕から首にかけては、こういう簡単なことで解決する部分もありますので、お試しください。首が解決すれば、背中も楽になることが多いですよ。激痛が来てから慌てて整体屋に走るより普段から緩めるように気をつけている方が、ずっと上策です。

力が抜けないという現象は、力を抜くということが感覚として分からなくなっているほど、身体の緊張が強いことを示していますが、首以外については、また別の機会に取り上げたいと思っています。

( 2010. 11 初出 )